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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)295号 決定 1978年6月27日

再抗告人

結城次郎

主文

原決定を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

再抗告人の再抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

記録によると、再抗告人が東京簡易裁判所に対し、東京地方裁判所長を相手方とし、再抗告人が新宿簡易裁判所における民事調停事件進行中に調停委員が調停室で再抗告人に対し威力を示し暴力行為に及んだため精神上財産上の損害を受けたことを理由として司法行政監督者である相手方に対し慰藉料等金二五万円の支払を求めるために本件調停の申立をしたこと、東京簡易裁判所裁判官が昭和五二年一二月二〇日本件調停申立は再抗告人の請求につき相手方となり得ない者を相手方として申立をしたもので不適法であるとして、これを却下する旨の裁判をしたことおよび原裁判所が本件調停申立却下の裁判に対しては即時抗告も通常抗告もできないから抗告は不適法であるとしてこれを却下したことが認められる。

そこで、調停申立却下の裁判に対し抗告が許されるかについて検討する。

民事調停法(以下「法」という。)二一条は「調停手続における裁判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告をすることができる。」と定め、民事調停規則(以下「規則」という。)には調停申立を却下する裁判に対して即時抗告を許す規定はないから、その裁判に対し即時抗告をすることができないことは明らかである。しかし、法二二条は「特別の定がある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り」非訟事件手続法(以下「非訟法」という。)第一編の規定を準用する旨定めるので、調停申立を却下する裁判に対しては、非訟法二〇条の規定の準用により通常抗告ができると解するのが相当である。けだし法文の形式の点からみるも、非訟法の準用を認めながら即時抗告のみを許し非訟法二〇条の通常抗告を許さない場合には「即時抗告のみを許すことができる」(たとえば家事審判法一四条、七条)などの文言を用いるのが通常であるというべく、法二一条が通常抗告の許否につき法二二条にいう「特別の定めがある場合」と解するのは相当ではない。また、一般に、手続に関する裁判については不服申立を許すことを原則とし、不服申立を許さない場合には明文をもつてその旨定めるのが通常であるというべきところ、(民事訴訟法二四条二項、四一条、三〇六条三項、三四八条、三五五条二項、三七六条一項、四三三条二項、五〇〇条三項、五四八条三条、五四九条四項など)、法二一条は、単に調停手続における裁判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告ができると規定するのみであるから、同条の規定をもつて民事調停手続における不服申立てについて統一的な定めをしたものと解するのは相当でない。実質的にみても、調停は憲法三二条にいう裁判ではないとしても裁判所の重要な機能の一環であつて、その許否のいかんは裁判制度の運用に重大な影響を及ぼすものであるから、調停申立の許否に関する裁判は慎重に行う必要があり、その判断の適否につき上訴審の判断に服することのできるように解釈するのが相当である。

よつて、調停申立を却下した裁判に対しては通常抗告をも許されないとして抗告を却下した原決定は失当であるから、民訴法四一三条、四一四条、三八八条により、原決定を取り消した上本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(杉本良吉 高木積夫 清野寛甫)

再抗告申立書<省略>

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